欧州評議会条約108号の改正

欧州連合(EU)の個人データ保護と異なり、欧州評議会(Council of Europe)の個人データ保護は注目を集めていませんが、現在、個人データの保護を定めた条約108号を現代化する改正が行われています。
条約108号がEU個人データ保護指令、そして最近採択されたEU個人データ保護規則と比べて注目を集めていない理由の一つは、EUの法令の方が厳しい基準を採っているため、EUの基準を満たしていれば、必然的に条約108号の基準を満たすことになるという関係にあるからではないかと思われます。
しかし、条約108号は最も早く法的拘束力を持つ個人データ保護の枠組みを示した条約ですし、欧州評議会の加盟国はEUとは異なりますので、その改正もフォローしておきたいところです。特に、日本は欧州評議会のオブザーバー国で、条約108号の改正に関する会議にも出席しています。

欧州評議会条約108号

欧州評議会では、閣僚委員会が1980年9月17日に、個人データの自動処理に係る個人の保護に関する条約(条約108号)を採択しました。英語名は、Convention for the Protection of Individuals with regard to Automatic Processing of Personal Data といいます。
同条約は、1981年1月28日に各国の署名に付され、スウェーデン(82.9.29)、スペイン(84.1.31)、ノルウェー(84.2.20)、フランス(83.3.24)、ドイツ(85.6.19)の5か国の批准により、1985年10月1日に発効しました。

1999年6月15日に、リスボン条約に伴う改正が行われました。

2001年には、監督機関および越境データ流通に関する追加議定書(Additional Protocol to the Convention for the Protection of Individuals with regard to Automatic Processing of Personal Data, regarding supervisory authorities and transborder data flows)を採択し、各国の署名に付しています。スウェーデン(01.11.8)、スロバキア(02.7.24)、ドイツ(03.3.12)、チェコ(03.9.24)、リトアニア(04.3.2)の5か国の批准により、2004年7月1日に追加議定書が発効しました。2016年8月31日現在で加盟国47か国と非加盟国3か国が批准しています。

条約の構成

<条約108号>
第1章 総則
第2章 データ保護の基本原則
第3章 越境データ個人データ流通
第4章 相互支援
第5章 諮問委員会
第6章 改正
第7章 最終条項

<追加議定書>

前文
第1章 監督機関
第2章 条約の締約国の管轄下になり受領者への個人データの越境流通
第3章 最終条項

 

改正の経過

2009年以降の条約108号改正の経過を表にしてみました。

月日 経 過
2009 9.2-4 諮問委員会第25回総会:技術の進歩によるデータ保護の課題に対応するための追加規定の必要性を検討することを、最優先の作業計画として承認
2010 3.10 閣僚委員会第1079回会合:諮問委員会の作業計画を承認、条約108号の追加議定書案の起草開始を奨励する決定
10.27-29 データ保護プライバシー・コミッショナー国際会議 第32回(イスラエル・エルサレム):欧州評議会の方針説明書(Position Paper)を配布
11.15 諮問委員会第21回事務局会議:欧州評議会事務局次長が会議の開催にあたり、条約108号の現代化に関する仕事の重要性を強調し、全面的支援を確証
11.26 法務大臣会議第30回会合(トルコ・イスタンブール):条約108号の現代化の支援を表明
2011 1.28 諮問委員会が第5回「データ保護の日」に意見聴取を開始 “Give Us Your Opinion!” 30項目の例を挙げ、3月10日を意見提出期限とする。
3.22-24 諮問委員会第23回事務局会議:ナムール大学教授Cecile de Terwangneが、約50の意見があった意見聴取の結果概要を報告。
6.21 諮問委員会の意見聴取の報告書公表(Cecile de Terwangne教授らが作成)
10.7 議員会議第36会期:条約108号の現代化を歓迎する決議1843
以後、諮問委員会で、条約108号の現代化提案の作成、関係者の意見聴取、審議、審議に基づく改訂が続く。
2012 11.27-30 諮問委員会第29回総会:閣僚委員会に交付する条約108号の現代化提案を採択し、提案の完成をデータ保護特別委員会に委託することを閣僚委員会に求める。
2013 7.10 閣僚委員会第1176会議:データ保護特別委員会の設置および委託事項を承認。同委員会は、加盟国、その他の締約国、非ヨーロッパの国の代表で構成。
12-14 データ保護特別委員会第1回会合
2014 4.28-30 データ保護特別委員会第2回会合
12.1-3 データ保護特別委員会第3回会合 EUやロシアが多くの部分で留保
2016 5.3 データ保護特別委員会が次回会議に向けて改正案公表
6.2 データ保護特別委員会が次回会議に向けて5月3日の改正案に基づき説明文書を作成・公表
6.15-16 データ保護特別委員会第4回会合:条約108号改正案を修正し、説明文書とともに採択し、事務局に対し、改正案の改定と閣僚委員会への回付を指示
7 データ保護特別委員会:条約108号改正最終案公表
今後は、閣僚委員会の議員会議への改正案の諮問、閣僚委員会における改正案の審議・採択が予定されている。
弁護士(第二東京弁護士会所属・弁護士・NY州弁護士) Gerogetown University Law Center LLM修了 早稲田大学法学部卒業 法律事務所Legal i プラスを2021年設立 Information Law, Internet Law, Intellectual Property Lawなど、iから始まる法律を中心に業務を行っています。 このサイトでは、情報法に関する情報を発信しています。5月末までは改正された個人情報保護法の記事を集中してUPする予定です。 私の詳しいプロフィールは、サイドバーのLinkedInをクリックしてご覧ください。