亡くなった人に対して名誉毀損は成立するか―『落日燃ゆ』事件

亡くなった人に対する表現について、名誉毀損を理由とした損害賠償請求や謝罪広告請求の訴訟が起こされることがある。表現の対象となっている人はすでに亡くなっており、訴訟を提起することはできない。代わって原告になるのは主に近親者であるが、どのような判断がなされているのだろうか。死者の名誉毀損といわれている論点である。

リーディングケース『落日燃ゆ』事件

リーディングケースは、作家城山三郎の『落日燃ゆ』をめぐる訴訟である。出版した新潮社のウェブサイトによれば、『落日燃ゆ』は次のように紹介されている。

東京裁判で絞首刑を宣告された七人のA級戦犯のうち、ただ一人の文官であった元総理、外相広田弘毅。戦争防止に努めながら、その努力に水をさし続けた軍人たちと共に処刑されるという運命に直面させられた広田。そしてそれを従容として受け入れ一切の弁解をしなかった広田の生涯を、激動の昭和史と重ねながら抑制した筆致で克明にたどる。毎日出版文化賞・吉川英治文学賞受賞。

本記事の判例として紹介する事件は、この『落日燃ゆ』の中に登場する広田元首相のライバルと目されていた外交官Aをめぐるものである。 続きを読む →