ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-利活用オッケー!情報と取扱い注意!情報

匿名加工情報とは

匿名加工情報は、ざっくりいえば「利活用OK!」情報です。なぜ利活用がOKなのかといえば、特定の個人が識別されないようにし、かつ元の個人情報に復元してはならない情報なので、個人の権利利益の侵害が低いと考えられるからです。

ただし忘れてはならないことがあります。

一つは、個人情報を匿名加工情報にしても、個人に関する情報であることには変わりはないという点です。

個人に関する情報と個人情報とは違うの?と疑問に思われる方がおられるかもしれません。
個人情報は個人に関する情報の中に含まれる概念ですが、個人に関する情報とイコールではありません。

参考記事

 

要配慮個人情報も匿名加工情報に加工可

もう一つの注意点は、要配慮個人情報も匿名加工情報に加工できる点です。
要配慮個人情報は、簡単に言ってしまえば「取扱い注意!」情報です。第三者提供には、原則として本人の同意が必要です。

匿名加工情報が規定された背景には、個人情報の保護を図りつつ、新産業、新サービスの創出など、日本の成長戦略を強力に推し進めていく考えがあるわけですが、その利活用の具体例の一つとして、「医療機関が保有する医療情報を活用した創薬や臨床分野を発展させる」ことがあげられていました(第189回衆議院内閣委員会議録第4号4頁・平成27年5月8日山口俊一国務大臣答弁/同参議院内閣委員会議録第10号2頁・平成27年5月28日向井治紀政府参考人答弁)。要配慮個人情報も匿名加工情報に加工できることが前提なのです。
医療分野では以前から特定の個人を識別できないようにした情報を研究に利用することがありましたから、匿名加工情報としての利活用が明確になったともいえるかもしれません。

ところで、医療情報の中には要配慮個人情報である病歴が必然的に入ることが多いと思われますので、適正に匿名加工情報を作成し、それを復元することを禁止しておかなければ、本人の同意なく第三者に提供された後に、識別されて元の個人情報が復元できることになります。要配慮個人情報という類型を作り、他の個人情報より厳しい規制をかけたことが潜脱されてしまわないためにも、匿名加工情報において復元が禁じられていることは大きな意味があると思われます。

まとめ

以上をまとめて図にしてみました。分かりやすくなったでしょうか?

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-Suica乗車履歴販売のケースはどうなる?

改正個人情報保護法については、様々な解説書が出ているのですが、どれを読んでもピンとこないのが匿名加工情報の説明です。というのは、改正前の個人情報保護法の下でも、特定の個人を識別することができない情報に加工した上で、本人の同意なく第三者に提供することは許されていました。

改正により、匿名加工情報を第三者に提供する際には、個人に関する情報の項目を公表し、匿名加工情報であることを明示することになっています(法36条4項、37条)。

それじゃあ、かえって第三者提供で行う規制が厳しくなり、ビッグデータの利活用という改正の背景と矛盾するのではないの?と感じる向きもあるのではないでしょうか。

国会審議での疑問提起

実際、国会の審議では次のような議論がなされています(第189回国会衆議院予算委員会第1分科会議録第1号・平成27年3月10日)。特に目を引く発言部分に下線を引きました。 続きを読む →

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-2条・37条・38条・39条(定義:匿名加工情報取扱事業者とその義務)

「匿名加工情報取扱事業者」とは、匿名加工情報データベース等を事業の用に供している者をいいます。匿名加工情報に合わせて改正法で定められました。匿名加工情報取扱事業者は、匿名加工情報の提供時の公表・明示義務、識別行為の禁止の義務および安全管理措置等の努力義務を負います

匿名加工情報取扱事業者とは

改正法の条文

改正により、以下の条文が新設されました。

(定義)

第2条

10 この法律において「匿名加工情報取扱事業者」とは、匿名加工情報を含む情報の集合物であって、特定の匿名加工情報を電子計算機を用いて検索することができるように体系的に構成したものその他特定の匿名加工情報を容易に検索することができるように体系的に構成したものとして政令で定めるもの(第36条第1項において「匿名加工情報データベース等」という。)を事業の用に供している者をいう。ただし、第5項各号に掲げる者を除く。

 

匿名加工情報の取扱いに対する規制

ビッグデータの利活用として、個人情報取扱事業者は作成した匿名加工情報を自ら取り扱うのではなく、第三者に提供し分析等を依頼し、事業に役立てたり、新しいサービスを生み出したりします。さらに匿名加工情報を売却することもあるでしょう。

それでは、こうした匿名加工情報の提供を受けた第三者は何らの義務も負わないのでしょうか。

いいえ、改正個人情報保護法は一定の規制をしています。

匿名加工情報は、特定の個人を識別することができないもので、かつ復元することができない情報ですが、この2つの要件を満たしているかどうかは、あくまで通常人の能力では特定の個人の識別や元の個人情報の復元ができないことを基準としています。つまり、高度な技術を用いれば、特定の個人が識別されたり、復元がなされたりすることもありうる情報なのです。したがって、匿名加工情報の取扱いについても一定の規制をしておかなければ、個人の権利利益の侵害の可能性を払拭できないのです。

すでに数回の記事で分けて書きましたが、その一つが匿名加工情報を作成する場合の個人情報取扱事業者の義務です。もう一つが、匿名加工情報取扱事業者の義務となります。

匿名加工情報取扱事業者とは

さて、「匿名加工情報取扱事業者」とは、匿名加工情報データベース等を事業のために用いる事業者のことです。

匿名加工情報データベース等とは、
①特定の匿名加工情報をコンピュータを用いて検索することができるように体系的に構成したデータベース
②目次や索引などで特定の匿名加工情報を容易に検索することができるように体系的に構成した情報の集合物
をいいます。

匿名加工情報取扱事業者から、国、地方公共団体、独立行政法人等、地方独立行政法人等は除かれます。

匿名加工情報取扱事業者の義務

匿名加工情報取扱事業者は、以下の義務を負います。

事業者の義務の内容 匿名加工情報取扱事業者
第三者提供時の公表・明示義務 法37条、規則23条
識別行為の禁止義務 法38条
安全管理措置等の努力義務 法39条

 

第三者提供時の公表・明示義務

改正法の条文

改正法は、匿名加工情報取扱事業者が、他者から提供を受けた匿名加工情報をさらに第三者に提供する場合に、以下のように公表・明示義務を定めています。

(匿名加工情報の提供)

第37条 匿名加工情報取扱事業者は、匿名加工情報(自ら個人情報を加工して作成したものを除く。以下この節において同じ。)を第三者に提供するときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、第三者に提供される匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目及びその提供の方法について公表するとともに、当該第三者に対して、当該提供に係る情報が匿名加工情報である旨を明示しなければならない。

 

匿名加工情報が二次流通する際の規制です。

個人情報取扱事業者から匿名加工情報を受領した匿名加工情報取扱事業者は、さらにその匿名加工情報を第三者に提供するときに、あらかじめ個人に関する情報の項目を公表し、その第三者に匿名加工情報であることを明示しなければなりません。

提供の方法

「提供」とは、匿名加工情報を第三者が利用可能な状態に置くことをいいます。ハードコピーを郵送するなど匿名加工情報が物理的に提供されている場合のほか、サーバにアップロードするなど、ネットワーク等を利用することにより、第三者が匿名加工情報を利用できる状態にあれば、提供にあたります(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉21頁)。

公表項目

公表義務のある個人に関する情報の項目は、個人情報取扱事業者が負う公表義務の項目と同様です。すべて削除したものは公表する必要はなく、一部削除したり置き換えたりした項目を公表しなければなりません。

参考記事

 

公表の方法

公表とは、不特定多数の人々が知ることができるように発表することをいいますので(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈通則編〉23頁)、インターネット上の利用(改正個人情報保護規則23条1項)、パンフレットの備置き・配布、ポスター等の掲示・備付けなどが含まれます。

明示の方法

明示とは、第三者に対し、提供する情報が匿名加工情報であることを明確に示すことをいいます(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉22頁)。

明示の方法は、電子メールを送信する方法または書面を交付する方法その他の適切な方法により行います(改正個人情報保護法施行規則23条2項)。

識別行為の禁止

改正法の条文

改正法は、個人情報取扱事業者と同様に、匿名加工情報取扱事業者にも、匿名加工情報の識別行為を禁止しています。

(識別行為の禁止)

第38条 匿名加工情報取扱事業者は、匿名加工情報を取り扱うに当たっては、当該匿名加工情報の作成に用いられた個人情報に係る本人を識別するために、当該個人情報から削除された記述等若しくは個人識別符号若しくは第36条第1項、行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第58号)第44条の10第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)若しくは独立行政法人等の保有する個人情報の保護に関する法律第44条の10第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)の規定により行われた加工の方法に関する情報を取得し、又は当該匿名加工情報を他の情報と照合してはならない。

 

匿名加工情報は、通常の方法では特定の個人を識別できないようにし復元できないようにすることによって自由な利活用を認める新しい類型の情報です。高度な技術によって特定の個人が識別できる可能性は残されています。
個人情報取扱事業者が提供した先の匿名加工情報取扱事業者が、保有している情報と照合するなどして、元の個人情報を復元すれば、第三者提供について本人の同意を要件とした規定が、いったん匿名加工情報としのちに個人情報に復元することにより、容易に潜脱できてしまうことになります。これでは、個人の権利利益は保護されません。

そこで、改正法は、匿名加工情報取扱事業者の個人情報の復元を禁止して、こうした事態を防止しています。

取得が禁止される情報

匿名加工情報取扱事業者は本人を識別するために、復元することができる可能性の高い以下の情報を取得してはなりません。

①匿名加工情報の元となった個人情報から削除された記述等
②個人識別符号
③加工の方法に関する情報

また、本人を識別するために他の情報と照合してはなりません。他の情報には特に限定はありません。

安全管理措置・苦情処理・その他

改正法の条文

改正法は、以下のように、匿名加工情報取扱事業者に、安全管理措置、苦情処理、その他適正な取扱いを確保するために必要な措置を講じる努力義務を課しました。

(安全管理措置等)

第39条 匿名加工情報取扱事業者は、匿名加工情報の安全管理のために必要かつ適切な措置、匿名加工情報の取扱いに関する苦情の処理その他の匿名加工情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ、当該措置の内容を公表するよう努めなければならない。

 

安全管理措置

匿名加工情報取扱事業者にも安全管理措置の義務があります。ただし、努力義務にとどまります。これは、匿名加工情報が特定の個人を識別することができず、たとえ漏えいしても個人の権利利益を侵害するおそれが低いためです。ここが個人情報取扱事業者の安全管理措置の義務と違う点です。

とはいえ、匿名加工情報の元となった情報が要配慮個人情報である場合など、匿名加工情報が不正に入手され個人情報が復元された場合には、個人の権利利益の侵害のおそれが高まることは否定できないと思われます。情報の質によっては、安全管理措置を講じておく必要があるでしょう。

苦情処理その他

また、匿名加工情報取扱事業者は、苦情処理その他の匿名加工情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、それを公表するよう努める義務があります。

 

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-36条(匿名加工情報の安全管理措置・苦情処理その他適正な取扱いを確保する努力義務)

個人情報取扱事業者は、匿名加工情報の安全管理措置を講じるよう努めなければなりません。苦情処理その他の匿名加工情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じる努力義務も負っています。そして、これらの措置の内容を公表するよう努めなければなりません。

改正法の条文

改正法で新設された条文は、次のように定めています。

第36条

6 個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成したときは、当該匿名加工情報の安全管理のために必要かつ適切な措置、当該匿名加工情報の作成その他の取扱いに関する苦情の処理その他の当該匿名加工情報の適正な取扱いを確保するために必要な措置を自ら講じ、かつ、当該措置の内容を公表するよう努めなければならない。

 

個人情報に関する義務と異なり、努力義務となっています。 続きを読む →

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-36条(匿名加工情報の識別行為の禁止義務)

個人情報取扱事業者は、元となった個人情報の本人を識別するために、匿名加工情報と他の情報を照合することが禁じられています。

改正法の条文

改正法で新設された条文は、次のように定めています。

第36条

5 個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成して自ら当該匿名加工情報を取り扱うに当たっては、当該匿名加工情報の作成に用いられた個人情報に係る本人を識別するために、当該匿名加工情報を他の情報と照合してはならない。

 

個人情報取扱事業者は、元となった個人情報の本人を識別するために、匿名加工情報と他の情報を照合することが禁じられています。匿名加工情報は、加工によって特定の個人を識別することができないようにし、復元できないようにすることによって、個人情報保護法に定義する「個人情報」から除外した新しい類型の情報です。目的外利用や本人の同意なく第三者提供を許容するなど自由な利活用が認められています。このことが大前提ですから、個人の識別のための照合は認められていません。 続きを読む →

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-36条(匿名加工情報の第三者提供時の公表義務と明示義務)

個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を第三者に提供するときは、あらかじめ第三者に提供される匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目および提供の方法を公表し、第三者に対し匿名加工情報であることを明示しなければなりません。

改正法の条文

改正法で新設された条文は、次のように定めています。

第36条

4 個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成して当該匿名加工情報を第三者に提供するときは、個人情報保護委員会規則で定めるところにより、あらかじめ、第三者に提供される匿名加工情報に含まれる個人に関する情報の項目及びその提供の方法について公表するとともに、当該第三者に対して、当該提供に係る情報が匿名加工情報である旨を明示しなければならない。

公表事項

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ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-36条(匿名加工情報の加工方法等の漏えい防止義務)

個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成したときは、加工方法等情報の漏えいを防止するために、個人情報保護委員会の基準に従い、必要な措置を講じなければなりません。

改正法の条文

改正法で新設された条文は、次のように定めています。

第36条

2 個人情報取扱事業者は、匿名加工情報を作成したときは、その作成に用いた個人情報から削除した記述等及び個人識別符号並びに前項の規定により行った加工の方法に関する情報の漏えいを防止するために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、これらの情報の安全管理のための措置を講じなければならない。

 

漏えいしてはならない情報

漏えいしてはならない情報は、個人情報から削除した記述等、個人識別符号、加工の方法に関する情報です。

これらが漏えいすれば、個人情報を復元されるおそれがありますので、個人情報取扱事業者は、その防止のために、個人情報保護委員会の定める基準にしたがって、必要な安全管理措置を講じなければなりません。 続きを読む →

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-36条(匿名加工情報の加工義務の遵守)

匿名加工情報に関して、個人情報取扱事業者は、基準に従った適正な加工義務、加工方法等情報の漏えい防止義務、作成時の情報項目の公表義務、第三者提供時の公表・明示義務、識別行為の禁止義務、安全管理措置等の努力義務を負います。

改正法による6つの義務

匿名加工情報に関して個人情報取扱事業者が負うべき6つの義務が改正法で次のように追加されました。匿名加工情報は個人情報保護法が規定する「個人情報」ではありませんので、個人情報取扱事業者は、匿名加工情報の取扱いに際し第15条から第35条までの義務は負いません。

事業者の義務の内容 個人情報取扱事業者
加工義務の遵守 法36条1項、規則19条
加工方法等の漏えい防止 法36条2項、規則21条
作成時の情報の項目の公表 法36条3項、規則20条
第三者提供時の情報の項目・提供方法の公表と匿名加工情報である旨の明示 法36条4項、規則22条
識別行為の禁止義務 法36条5項
安全管理措置等の努力 法36条6項

個人情報取扱事業者は自らも匿名加工情報を利用できる?

匿名加工情報を作成した個人情報取扱事業者は、別の事業者に匿名加工情報を提供するだけではなく、自らも匿名加工情報を取り扱うことができます。

改正法36条は、第4項を除き自社利用の場合にも適用されます。自社利用の場合、匿名加工情報のもととなった個人情報の利用目的にとらわれることはなく、別の目的で利用することができます(以上、第156回国会衆議院内閣委員会議録第2号18頁・平成27年3月25日向井治紀政府参考人答弁)。
匿名加工情報が個人情報保護法の規定する「個人情報」ではないため、個人情報を対象とする義務を負担することはないからです。

個人情報取扱事業者の内部で、個人情報を匿名化して保有して利用する場合、別のIDと容易に照合することにより個人情報になり得る場合には、いまだその情報は「個人情報」であり、匿名加工情報になっているわけではありません(同向井治紀政府参考人答弁)。

匿名加工情報は、元の個人情報に復元することができないように加工し、かつ本人を識別することが禁止されている特別の類型の情報であることに留意が必要です。

参考記事

 

それでは、個人情報取扱事業者が負う義務を一つひとつ確認していきましょう。本記事では、加工義務の遵守を取り上げます。他の義務について書いた記事は、上記の表に記事のリンクを貼ってありますので、参考にしてください。

加工義務の遵守

個人情報取扱事業者が、匿名加工情報を作成するときは、個人情報保護委員会の定める基準にしたがって、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、かつ、当該個人情報を復元することができないようにしなければなりません。

改正法の条文

改正法で新設された条文は、次のように定めています。

第2節 匿名加工情報取扱事業者等の義務

(匿名加工情報の作成等)

第36条 個人情報取扱事業者は、匿名加工情報(匿名加工情報データベース等を構成するものに限る。以下同じ。)を作成するときは、特定の個人を識別すること及びその作成に用いる個人情報を復元することができないようにするために必要なものとして個人情報保護委員会規則で定める基準に従い、当該個人情報を加工しなければならない。

 

匿名加工情報は、本人の同意を不要とし自由な利活用を認める情報ですから、匿名加工情報がきちんと作成されなければなりません。加工が不十分で特定の個人が識別されるような状態で利活用されれば、個人の権利利益の侵害につながります。出発点として適正に加工することが求められています。

しかし法律の条文は分かりにくいものです。
要は、個人情報取扱事業者が匿名加工情報を作成するためには、

①特定の個人を識別することができなくなるように個人情報の全部または一部を削除し、
②その個人情報を復元することができないようにし、
③①と②を行うためには、個人情報保護委員会の定める基準にしたがう
義務があるということです。

個人情報保護委員会の定める基準

基本的には、個人情報保護委員会の定める基準にしたがって、個人情報を加工すれば、①と②を満たした匿名加工情報が作成できることになります。
加工の程度が高くなると、一般に匿名加工情報の有用性は低下すると考えられ、加工の程度と加工後の情報の有用性はトレード・オフの関係(注:交換、両立し得ない関係性という意味)にあるといわれています(第189回国会衆議院内閣委員会議録第4号4頁・平成27年5月8日/同参議院内閣委員会議録第10号山口俊一国務大臣答弁/同参議院内閣委員会議録第9号向井治紀政府参考人答弁)。

このため、個人情報保護委員会の定める基準やガイドラインは、本人の権利利益を適切に保護しながら情報の有用性に配慮するというふうな観点から、消費者、産業界、専門委員などの意見を幅広く聴取し、反映することとされました(同答弁)。

そこで定められた個人情報保護委員会の基準は、改正個人情報保護法規則19条1項です。

次の5つの基準があげられています。

  • 特定の個人を識別することができる記述等の全部または一部の削除・置き換え
  • 個人識別符号の全部の削除・置き換え
  • 個人情報を相互に連結する符号の削除・置き換え
  • 特異な記述等の削除・置き換え
  • 個人情報データベース等の性質を踏まえたその他の措置

①特定の個人を識別することができる記述等の削除・置き換え

氏名、住所、生年月日その他の記述等により、特定の個人を識別することができる場合には、そうした記述等の全部または一部について削除・置き換え(当該全部または一部の記述等を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えること)を行わなければなりません(改正個人情報保護法規則19条1項)。

②個人識別符号の削除・置き換え

個人識別符号については、その全部を削除するか、または当該個人識別符号を復元することのできる規則性を有しない方法により他の記述等に置き換えなければなりません(改正個人情報保護法規則19条2号)。個人識別符号は、その情報単体だけで、特定の個人が識別することができるからです。

参考記事

 

③情報を相互に連結する符号の削除・置き換え

管理IDをつけて個人情報を取り扱っている場合には、管理用IDの連結により、特定の個人の識別または元の個人情報の復元することが可能です。たとえば氏名などの基本情報とその他の情報を分けた2つのファイルは、管理用IDで連結すれば特定の個人が識別されます。いつでも復元可能となっている限り、「個人情報」として取り扱わなければなりません。

匿名加工情報とするためには、個人情報から、情報を相互に連結している符号を削除するかまたは他の符号に置き換えなければなりません(改正個人情報保護法規則19条3号)。

個人情報保護委員会のガイドラインでは、他の符号に置き換える例として、元の記述を復元することのできる規則性を有しない仮IDを付すことがあげられています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉12頁)。

④特異な記述等の削除・置き換え

個人情報の中には、特異な記述、すなわち珍しい事実に関する記述等又は他の個人と著しい差異が認められる記述により特定の個人を識別する可能性があるものが存在します。たとえば、個人情報保護委員会のガイドラインでは、症例数の極めて少ない病歴や、年齢が「116歳」という情報があげられています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉13頁)。
この場合には、その特異な記述等を削除するか他の符号に置き換える必要があります(改正個人情報保護法規則19条4号)。病歴については削除し、年齢については「90歳以上」に置き換えるなどです、

どのような記述が特異であるかは、情報の性質等を勘案して、個別の事例ごとに客観的に判断するとされています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉12頁)。

⑤個人情報データベース等の性質を踏まえたその他の措置

上記の4つの削除・置き換えをしても、なお特定の個人を識別することが可能であったり、元の個人情報を復元できたりすることができる場合もあります。
想定される事例として、自宅や職場などの所在が推定できる位置情報、ある小売店で購入者が極めて限定されている商品の購買履歴、小学校の身体検査で1人の児童の情報が他の児童とは異なる場合などがあげられています(個人情報の保護に関する法律についてのガイドライン〈匿名加工情報編〉13頁)。

こうした場合には、必要に応じて適切な措置を講じることになります(改正個人情報保護法規則19条5号)。

個人情報保護委員会のガイドラインのほか、個人情報保護委員会の事務局が「匿名加工情報 パーソナルデータの利活用促進と消費者の信頼性確保の両立に向けて」というリポートを公表しています。

この中で、情報の項目と想定されるリスクおよび加工例が表になっています(33頁)。この表は大変見やすく参考になります。

事業者の自主的ルール

個人情報保護委員会の規則は、最低限のルールを定めたものとされています。事業の特性や取り扱いデータの内容に応じた詳細なルールについては、事業者の自主的なルールに委ねられています。別の記事で説明しましたので、参考にしてください。

参考記事

 

ぼちぼち改正個人情報保護法を読む-2条(定義:匿名加工情報)

「匿名加工情報」とは、特定の個人を識別することができないように個人情報を加工し、かつ、その個人情報を復元できないようにしたものをいいます。改正個人情報保護法で新たに作られた類型です。

匿名加工情報が新設された理由

匿名加工情報は改正法によって新設された概念で、改正法の大きな柱の一つとされています。

改正前の個人情報保護法は、目的外利用や第三者提供にあたり本人の同意を必要とする仕組みを取っていました。個人情報取扱事業者にとって、本人の同意を得る負担が大きく、パーソナルデータの「利活用の壁」の一つとなっていると指摘されていました(「パーソナルデータの利活用に関する制度改正大綱」7頁)。
この利活用の壁を取り除く観点から、個人情報の保護を図りつつ、新産業、新サービスの創出など、日本の成長戦略を強力に推し進めていく考えのもと、匿名加工情報に関する制度が導入されました(第189号国会衆議院会議録第19号3頁・平成27年4月23日山口俊一国務大臣答弁)。 続きを読む →